米長期金利(10年物国債)急上昇!日本株式市場への影響や注意が必要な銘柄は?

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紫垣英昭

昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介

2021年2月25日、米国長期金利(米国債券10年債)は一時1.6%台に急上昇し、新型コロナ禍で過去最高水準に到達しました。

米国長期金利の上昇を受けて、米国の株式市場は急落し、これを受けて日経平均株価は-1,202円の暴落となるなど、世界中の金融市場に大きな混乱をもたらしつつあります。

今回は、米国長期金利急上昇のニュースについて解説した上で、株式市場への影響や株式投資で注意が必要なポイントについて説明していきます。

この記事を読んで得られること
  • 米長期金利急上昇のニュースについてわかる
  • 株式市場への影響や株式投資で注意が必要なポイントがわかる
  • 今後、株式市場で注視するべきテーマ株がわかる

米長期金利(米国債券10年債)が急上昇

2021年2月25日、米国の長期金利を見る上で重要視される米国債利回り(10年)が、一時1.614%にまで急上昇しました。

米国10年国債利回りの日足チャート

(引用 : https://jp.tradingview.com/symbols/TVC-US10Y/)

米国債利回り(10年)は、コロナ禍においては下落しており、8月には一時0.5%台にまで下落していました。

しかし、8月以降はジワジワと上昇基調に転じており、2021年2月25日には一時1.614%にまで急上昇した形となっています。

※注釈:上記チャートは終値ベースの日足チャートであるため、高値は記録されていません。

米長期金利が上昇している背景には、アメリカ経済の回復が好調であることや、新型コロナワクチンの普及による経済の急回復が期待されていること、バイデン新政権が実施する2兆ドル規模の大型追加経済対策への期待などがあります。

アメリカ経済の回復が予想以上であることから、FRB(米連邦準備制度)が2023年末までに予定している金融引き締めを前倒しするとの憶測がトレーダーの間で広まったことが、米長期金利の急上昇の引き金となりました。

米長期金利の急上昇によって株式市場は下落

米長期金利が急上昇したことによって、株式市場は大きな下落に見舞われることとなりました。

アメリカのダウ平均株価は、米長期金利が急上昇した2月25日~2月26日に掛けて約-1,000ドルの下落となっています。

ダウ平均株価の日足チャート

(引用 : https://jp.tradingview.com/symbols/DJ-DJI/)

1年分のチャートで見てみると、ほとんど影響はないように見えますが、コロナ禍で特に大きく上昇したハイテク株で構成される「NASDAQ100指数」は特に大きな下落率となりました。

NASDAQ100指数の日足チャート

(引用 : https://jp.tradingview.com/symbols/NASDAQ-NDX/)

米長期金利の急上昇による米国株安を受けて日本株も大きく売られる展開となり、日経平均株価は2021年2月26日に-1,200円を超える暴落となりました。

日経平均株価の日足チャート

米長期金利が上昇すると株価が下落する理由

国債と株価の関係や米長期金利が上昇すると株価が下落する理由について押さえておきましょう。

企業の借り入れコストに悪影響が出る

国債利回り、つまり長期金利が上昇するということは、企業にとっては借り入れコストの増加を意味します。

借り入れコストが増加することが、企業にとってリスクと見なされると株価には売り圧力となります。

とはいえ、景気回復を背景に国債利回り(長期金利)が上昇する場合には、企業にとって一概に悪い現象とは言えません。

今回起こっている米国債利回りの上昇も、新型コロナ禍での景気回復が予想以上であるという背景があるため、企業にとって全面的に悪い影響があるとは言えません。

米長期金利の上昇=株安になるという単純な図式ではないことを押さえておきましょう。

投資家にとっては株式投資が不利になる

カネ余りのコロナ禍において影響が大きいと見られるのは、長期金利が上昇することによって、株式投資が不利になってしまうことです。

株式投資を行うと、配当金を得ることができます。アメリカ市場を代表する500銘柄で構成される「S&P500指数」の配当利回りは1.5%程度となっています。

※参考:東証に上場している「S&P500指数」連動型ETF【1547】上場インデックスファンド米国株式(S&P500)の配当利回りは1.30%。

(出典:https://www.jpx.co.jp/equities/products/etfs/issues/files/1547-j.pdf)

低金利やゼロ金利の状況では、株式投資して配当金を得るというインセンティブが生まれます。

しかし、国債利回りが上昇してくれば、値下がりリスクのある株式に投資するインセンティブは失われることになります。

今後の米長期金利と株式市場はどうなる?

今後の、米長期金利と株式市場の値動きについて考えてみましょう。

米長期金利はコロナ禍において上昇し続けていますが、今後は安定するのではないかという見方も少なくありません。

その根拠の一つとしては、米国国債利回り(10年)の長期チャートにあります。

米国10年国債利回りの週足チャート

(引用 : https://jp.tradingview.com/symbols/TVC-US10Y/)

2020年8月以降には米国債利回り(10年)は大きく上昇していますが、長期チャートで見てみると正常な反発に見えます。

米国債利回り(10年)がこれから安定していくのか、さらなる上昇に繋がるのかは分からないため、今後も注視が必要な状況には変わりません。

一方、株式市場は、米国債利回りの上昇を受けて米国株・日本株が下げたとはいっても、コロナ後の上昇幅からすると、ほとんど下げていないも同然です。

株式市場は依然バブルが懸念されている状況と言えます。

景気回復を受けて米国債利回りが高止まりすることになれば、配当金では株式投資のインセンティブはなくなりつつあることから、最悪の場合にはバブルの崩壊の引き掛けに繋がる可能性もあり得るかもしれません。

米長期金利の上昇で注意が必要な日本株は?

米長期金利の上昇で影響を受けるかもしれない銘柄について押さえておきましょう。

半導体関連銘柄などの成長ハイテク株

半導体関連銘柄はコロナ禍において特に強く、株式市場をけん引しているセクターとなっています。

ただ、米国債利回りの上昇で株式市場が下落した2021年2月25日以降の株式市場を見てみると、半導体関連銘柄のような成長株(グロース株)は警戒が必要な局面になってくるかもしれません。

具体的には、半導体製造装置メーカーの【8035】東京エレクトロンや【6857】アドバンテスト、【6920】レーザーテック、半導体材料を手掛ける【4063】信越化学工業や【3436】SUMCOといった銘柄には注意しておくようにしましょう。

【8035】東京エレクトロンの週足チャート

まとめ

今回は、米長期金利急上昇のニュースについて解説した上で、株式市場への影響や株式投資で注意が必要なポイントについて説明してきました。

2021年2月25日、米国の長期金利を見る上で重要視される米国債利回り(10年)が一時1.614%にまで急上昇し、これを受けて日米の株式市場は大きく売られることとなりました。

米長期金利が上昇している背景には、新型コロナ禍での経済回復が予想以上であり、新型コロナワクチンやバイデン政権の経済対策への期待があるなど、経済にとってはポジティブな理由によるものです。

株式投資をする上でのポイントとしては、米国債利回り(10年)と「S&P500指数」の配当利回りがほぼ並んだことにあります。

配当利回りで株式投資の優位性がなくなりつつあることによって、売りが目立つ局面になる可能性があります。

特に、コロナ禍で大きく上昇してきた半導体関連銘柄などの成長株の動向は注視しておきましょう。

紫垣 英昭