株価に即反映!「資本異動」4種類をやさしく解説。市場への影響とは?

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紫垣英昭

昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介

「資本異動」あまり耳なじみのない言葉かもしれませんが、企業が行う公募増資や株式分割、自社株買いのことを言い、株価にも大きな影響を与えます。

重要な資本異動に関するニュースが発表されると、即座に材料として株価に反映されることが多いため、長期投資をするにせよ短期投資をするにせよ、資本異動と株価について理解しておくことは欠かせません。

今回は、資本異動に関する基本概要について解説した上で、株式投資において材料とされやすい4つの資本異動(公募増資、株式分割、自社株買い、第三者割当増資)について具体的な事例を挙げて紹介していきます。

この記事を読んで得られること
  • 資本異動とは何かがわかる
  • 公募増資、株式分割、自社株買い、第三者割当増資とはなにかがわかる
  • 資本異動の株価への影響をチャートで解説

資本異動とは?

資本異動とは、増資や株式分割、自社株買いなどによって増減した発行済株式数の推移のことです。

資本異動は、会社四季報に詳しく掲載されており、「資本異動」の欄で下記のように確認することができます。

引用:会社四季報

会社四季報では、資本異動の内容については略称を用いており、略称の意味は次のようになっています。

略称

異動内容

 

略称

異動内容

額面割当有償増資または有償割当増資

 

消却

自己株式の消却

株式分割

 

優先株の発行

株式併合

 

縁故

縁故募集

無割

無償割当

 

株式配当

公募

 

無償

中間時価発行

 

予約権

会社が予約権を一斉取得してこれと引換に普通株を交付した場合、またはライツプランによる普通株の交付

三者

第三者割当増資

 

交換

株式交換

減資

資本金等の減額

 

完全子会社

株式交換または株式移転による完全子会社化

現物出資

金銭以外の財産による出資

 

 

 

このように資本異動と一口に言っても、その種類はさまざまです。

とはいえ、上記の資本異動全てを覚える必要はなく、株式投資をする上では重要な資本異動に絞って理解しておけば問題ありません。

資本異動は株価にどのような影響を与える?

増資や株式分割、自社株買いといった資本異動に関するニュースは、株価に大きく影響する材料となるケースが少なくありません。

ファンダメンタル分析による長期投資を手掛ける場合であっても、テクニカル分析による短期投資を手掛ける場合であっても、資本異動に関するニュースは要チェックが必要です。

重要な資本異動のニュースが発表されると、ほぼ即座に株価は反応することになるため、3ヶ月に1度発表される会社四季報を待っていては出遅れてしまう場合がほとんどです。

ただ、資本異動に関するニュースは、その全てが材料になるということではありません。

特に、株価に大きな影響を与える資本異動としては、公募増資、株式分割、自社株買い、第三者割当増資が挙げられます。

今回は、株価に大きな影響を与えやすい上記の材料について解説した上で、具体的な事例をチャート付きで紹介していきます。

公募増資

公募増資とは、不特定多数の投資家に対して、新しい株式を発行して資本金を増額することです。

公募増資を行うメリットとしては、株式流通量が増加し、株主数が増加することが挙げられます。

ただ、発行株式数を増やすことによって、1株当たり利益が棄損されてしまうため、理論的には公募増資を行うと株価は下がることになります。

しかし、これはあくまで、公募増資を行っても企業価値が変わらないと仮定した場合です。公募増資を行うことで企業業績の向上に繋がると好感された場合には、株価が上昇するケースがあります。

2020年に公募増資を行った銘柄と株価チャートを見ていきましょう。

首都圏を中心に不動産事業を展開する【3288】オープンハウスは、2020年7月10日に公募増資と自社株処分を実施して、最大で約501億8,200万円を調達することを発表しました。

【3288】オープンハウスの日足チャート(2020年8月)

オープンハウスの株価は、公募増資を発表したことで1株当たり利益が希薄化されることが懸念されて売られていることが分かります(上図赤丸)。ただ、7月末に下げ止まってからは上昇に転じました。

公募増資は短期的には売り材料となることが一般的ですが、成長が期待される企業の場合には買い材料となる場合もあるため、しっかり見極めていく必要があります。

株式分割

株式分割とは、既に発行されている株式を分割することです。1株を2株に、1株を3株にといった分割が行われます。

株式分割を行っても企業価値が変わるわけではないため、株式分割の割合に応じて株価が修正されます。

例えば、株価が3,000円で1株→2株の株式分割が行われた場合には株価は1,500円となり、株価が3,000円で1株→3株の株式分割が行われた場合には株価は1,000円となるといった具合です。

また、既に株式を保有している投資家には分割された株式が割り当てられるため、株式分割は増資と違って、既存株主の利益が棄損されることはありません。

株式分割のメリットは、株価が小さくなることによって、より多くの投資家が株を買いやすくなる効果が生まれることです。

例えば、株価が10,000円の銘柄に投資するには100万円の投資資金が必要になりますが、1株→2株の株式分割を行えば株価は5,000円となり50万円から投資可能となります。

このため、株式分割は株価が上昇している銘柄で行われることが多く、より多くの買いが集まるきっかけになると好感されるケースが多々あります。

2020年に株式分割を行った銘柄と株価チャートを見ていきましょう。

ネット学習教材「すらら」を提供する【3998】すららネットは、2020年6月12日、6月30日を基準に1株→5株の株式分割を行うことを発表しました。

【3998】すららネットの日足チャート(2020年8月)

すららネットの株価は、株式分割発表後に急騰していることが分かります(上図赤丸)。

同社は、新型コロナ下のオンライン教育で注目されたことから新型コロナ相場で急騰していましたが、株式分割で買いやすくなったことで好感されて一段高となりました。

ただ、「噂で買って、事実で売れ」の相場格言に従うように、株式分割が実施された6月30日に高値を付けてからは(上図青丸)、下落~横ばいとなっています。

自社株買い

自社株買いは、企業が発行した株式を、企業が買い戻すことです。

自社株買いを行うことによって発行済み株式数が減り、1株当たり利益の向上に繋がるため、自社株買いは買い材料となります。

自社株買いは、実質的には企業による株主還元政策として行われます。

株主還元というと、配当金(インカムゲイン)の増配がポピュラーですが、自社株買いは株価向上を通して株主に値上がり益(キャピタルゲイン)をもたらす株主還元策です。

2020年に自社株買いを行った銘柄と、株価チャートを見ていきましょう。

ホームセンター「コーナン」「コーナンPRO」「ホームストック」を運営する【7516】コーナン商事は、2020年7月14日、230万株を上限に自社株買いを行うことを発表しました。

【7516】コーナン商事の日足チャート(2020年8月)

コーナン商事の株価は、自社株買い発表後に上昇しています(上図赤丸)。なお、自社株買い発表前日には好調な決算も発表していました。

第三者割当増資

第三者割当増資は、特定の第三者に対して、新しい株式を発行して資本金を増額することです。

公募増資が一般投資家を対象にして行う増資である一方、第三者割当増資では取引先や取引金融機関、自社役員などに権利を与えて増資を行います。

しかし、増資であるため、理論的には1株当たり利益が棄損されてしまうことから株価下落に繋がるマイナス材料となります。

ただ、第三者割当増資を行うことで企業業績の向上に繋がると好感された場合には、株価上昇に繋がるケースも少なくありません。

2020年に第三者割当増資を行った銘柄と株価チャートを見ていきましょう。

AI型機械翻訳ソフトを手掛ける【6182】ロゼッタは、2020年7月15日、第三者割当増資を実施し、約57億円の資金調達を行うと発表しました。

【6182】ロゼッタの日足チャート(2020年8月)

ロゼッタの株価は、第三者割当増資の発表が好感されて、発表当日は上昇しましたが、翌日は一転して下落しています(上図赤丸)。

第三者割当増資を実施すると理論的には株価は下がりますが、企業によっては好感されて上昇する場合もあります。企業ごとの見極めが必要です。

まとめ

今回は、資本異動に関する基本概要について解説した上で、株式投資において特に材料とされやすい4つの資本異動(公募増資、株式分割、自社株買い、第三者割当増資)について具体的な事例を挙げて紹介してきました。

公募増資と第三者割当増資は、増資によって1株当たり利益が棄損されてしまうためネガティブ材料となり売られることが一般的ですが、成長が期待される場合にはポジティブ材料になる場合があります。

株式分割は、直接的には企業価値にも株主利益にも影響しませんが、株価が下がって買いやすくなることが好感されてプラス材料となることが少なくありません。

特に、株価が急上昇していて、値嵩株になっている銘柄の場合には、株式分割は絶好の買い材料となるケースが多く見受けられます。

自社株買いは、株価上昇による値上がり益で株主還元を目的に行う企業が増えています。安定した買い材料です。

マーケットで注目されやすい資本異動について抑えておき、株式投資に役立てていきましょう。

紫垣 英昭