「無形資産倍率」とは?新型コロナ相場で大注目のDX銘柄でも重要な指標を解説!

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紫垣英昭

昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介

新型コロナ下では「デジタルトランスフォーメーション-(DX)」という言葉を毎日のように耳にするようになり、株式市場においてもデジタルトランスフォーメーションは最注目テーマとなっています。

社会や経済でデジタルトランスフォーメーションが進む中、マーケットでは「無形資産倍率」という新しい指標が注目されるようになってきています。

無形資産倍率とは、ソフトウェアや商標といったデジタル資産の割合を示す指標です。社会のデジタルトランスフォーメーションが進む今後は、より一層注目される指標になるものと思われます。

今回は、無形資産倍率の概要について解説した上で、無形資産倍率が高い銘柄と低い銘柄の双方について2020年新型コロナ相場での株価動向をチャート付きでご紹介していきます。

この記事を読んで得られること
  • 無形資産倍率とは何かがわかる
  • デジタルトランスフォーメーションと無形資産倍率の関係がわかる
  • 無形資産倍率が高い企業と低い企業の新型コロナ相場での値動きの違いがわかる

無形資産倍率とは?

無形資産倍率とは、企業の固定資産の内、有形固定資産に対する無形固定資産の割合のことです。

そもそも有形固定資産とは、土地や建物、工場や機械設備といった、形のある固定資産のことです。

一方、今回注目していく無形固定資産とは、ソフトウェアや特許権、商標権といった、形のない固定資産のことを指します。

無形資産倍率が高い企業とは、ソフトウェアのようなデジタル資産や、特許権・商標権のような技術に投資している企業と見ることができます。無形資産倍率が高い企業には、医療や製薬、ネット企業が多い傾向があることが特徴です。

一方、無形資産倍率が低い企業(=有形固定資産が多い企業)は、工場や機械設備で多くの固定資産を保有している自動車や鉄鋼業といった製造業が多くなります。

日本の生産性の低さがたびたび問題となっていますが、特に遅れていると指摘されていることはデジタル化です。

企業が、ソフトウェアなどの無形資産への投資を進めれば生産性も向上することが期待されるため、無形資産倍率が高い企業はROEも高くなる相関関係があるとも指摘されています。

新型コロナ下で進むデジタルトランスフォーメーションで無形資産倍率に注目が集まる

新型コロナ下では、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉をたびたび耳にするようになりました。

デジタルトランスフォーメーションとは、企業がITを活用して事業効率化をはかる活動全般を指します。

現在、デジタルトランスフォーメーションによって世界経済をリードしているのはアメリカのIT大手GAFAですが、GAFAは無形資産への投資において世界をリードしています。

例えば、Googleの検索エンジンやYoutube、Amazonのネットサービスやクラウドサービス「AWS」、AppleのiPhoneブランド、FacebookやInstagramなどのSNS、これらはいずれも形のない無形資産です。

2020年代はデジタルトランスフォーメーションがさらに進むことは間違いなく、無形資産への投資が企業の勝敗を分けると言っても過言ではありません。

新型コロナ相場においては、実体経済の落ち込みとは対照的に株価は上昇していますが、無形資産倍率が高い企業は特に上昇が目立っています。

無形資産倍率が高い企業は新型コロナ相場で大きく上昇している。

日本株の中でも特に無形資産倍率が高い銘柄について、2020年新型コロナ相場での動向を見ていきましょう。

【2175】エス・エム・エス

ネットを活用して医療・介護業界向けに人材派遣を手掛ける【2175】エス・エム・エスは、日経新聞の調査で、最も無形資産倍率が高い企業となっています。
※出典:日経新聞電子版

【2175】エス・エム・エスの日足チャート(2020年4~8月)

エス・エム・エスの株価は、新型コロナ相場で右肩上がりのチャートを形成しています。

なお、無形資産倍率ナンバーワン企業である同社は長期的に見ても成長しており、アベノミクスが始まった2013年から2020年までに15倍以上の株価上昇を遂げている成長株です。

【2175】エス・エム・エスの月足チャート

2020年代は、高齢化が日本の社会問題として立ちふさがってきますが、医療・介護現場をデジタルトランスフォーメーションで支える同社にはますます注目が集まることが期待されます。

【4689】Zホールディングス

日本最大のネットポータルサイト「Yahoo!ジャパン」や、ネットショッピング「Yahoo!ショッピング」「ヤフオク!」を展開する【4689】Zホールディングスは、無形資産倍率が高い企業として知られています。

【4689】Zホールディングスの日足チャート(2020年4~8月)

Zホールディングスの株価は、新型コロナ相場で右肩上がりの上昇トレンドとなっています。

同社は、新型コロナ相場では巣ごもり消費の拡大で大きな注目が集まりました。2020年7月末の決算では、多くの企業が新型コロナの影響でネガティブ決算を発表する中で、好調な決算を発表し、一段高となっています。

【2413】エムスリー

製薬会社のマーケティング支援や日本最大級の医療従事者専用サイト「m3.com」を運営する【2413】エムスリーは、日経平均構成銘柄の中では特に無形資産倍率が高い企業となっています。

【2413】エムスリーの日足チャート(2020年4~8月)

エムスリーの株価は、新型コロナ相場で右肩上がりとなっています。新型コロナ下では、遠隔医療が注目されたことも追い風となりました。

新型コロナ相場では日経平均株価も回復しましたが、2019年10月に日経平均構成銘柄に採用されたばかりの同社は、新型コロナ相場で日経平均を大きくけん引した銘柄です。

【6027】弁護士ドットコム

会員向けの法律相談や弁護士向け営業支援サイト運営を手掛ける【6027】弁護士ドットコムも、無形資産倍率が高い銘柄として知られています。

【6027】弁護士ドットコムの日足チャート(2020年4~8月)

弁護士ドットコムの株価は、新型コロナ相場で大きく上げていることが分かります。新型コロナ相場では東証マザーズ全体が大きく買われていますが、東証マザーズ銘柄の中でも代表的な上昇銘柄となりました。

特に、同社はWeb完結型クラウド契約サービス「クラウドサイン」を展開していることもあり、テレワーク関連で物色された銘柄となっています。

【4502】武田薬品工業

製薬会社最大手の【4502】武田薬品工業も、無形資産倍率が高い企業として知られています。

【4502】武田薬品工業の日足チャート(2020年4~8月)

武田薬品工業の株価は、新型コロナ相場で上昇していますが、ここまで見てきた他の銘柄に比べるとやや見劣りします。日経平均とほとんど似たような動きと言ってよいでしょう。

無形資産倍率が低い企業は新型コロナ相場で苦戦している

続いて、無形資産倍率が低い(=有形資産倍率が高い)銘柄について、新型コロナ相場での値動きを見ていきましょう。

【7203】トヨタ自動車

工場を保有する自動車メーカーは、どうしても無形資産倍率が低くなってしまいがちです。

日本を代表する自動車メーカー【7203】トヨタ自動車の新型コロナ相場における値動きを見ていきましょう。

【7203】トヨタ自動車の日足チャート(2020年4~8月)

トヨタの株価は、新型コロナ相場では横ばい~やや上昇に留まっています。他の自動車メーカーが赤字決算となる中で黒字を確保したことが好感されて8月初めには上昇しましたが、新型コロナ相場で積極的に買われたとは言えません。

さらに、トヨタにとって衝撃的だったことは、新型コロナ下で、アメリカのEV大手テスラ・モーターズの時価総額がトヨタを抜いたことです。

現状では、テスラ・モーターズはトヨタの足元にも及びませんが、マーケットはソフトウェアやデータといった無形資産に強いテスラ・モーターズに期待していることは間違いありません。

【5401】日本製鉄

大規模工場を有しなければいけない鉄鋼株は、無形資産倍率が低い典型的なセクターです。

日本を代表する鉄鋼株である【5401】日本製鉄の株価を見ていきましょう。

【5401】日本製鉄の日足チャート(2020年4~8月)

日本製鉄に限らず、鉄鋼株はコロナショックで大きく売られたにも関わらず、その後の新型コロナ相場ではほとんど戻していません。

上記の株価チャートは日足チャートであるため、やや戻しているように見えますが、長期の月足チャートで見てみると、鉄鋼株の惨状が見えてきます。

【5401】日本製鉄の月足チャート

 

鉄鋼株は、2018年の米中貿易摩擦以降、下落が止まらず、新型コロナ相場では完全に置いて行かれてしまっている状況です。

今後も鉄鋼需要がなくなることはありませんが、デジタルトランスフォーメーション下では厳しい状況が続くと言わざるを得ません。

【8035】東京エレクトロン

自動車や鉄鋼といった無形資産倍率が低いセクターは新型コロナ相場で苦戦していますが、無形資産倍率が低くても好調なセクターもあります。

それはズバリ、半導体株です。半導体は電子製品にはなくてはならないため、デジタルトランスフォーメーションが進めば進むほど需要が拡大します。

世界的な半導体製造装置メーカーである【8035】東京エレクトロンの、新型コロナ相場における株価動向を見ていきましょう。

【8035】東京エレクトロンの日足チャート(2020年4~8月)

東京エレクトロンの株価は、新型コロナ相場において上昇していることが分かります。

デジタルトランスフォーメーションが進むことで無形資産倍率が高い企業に注目が集まりますが、無形資産倍率が低い企業であっても、デジタルトランスフォーメーションの恩恵を受けられる企業は買われることが期待されます。

まとめ

今回は、無形資産倍率の概要について解説した上で、無形資産倍率が高い銘柄と低い銘柄の双方について2020年新型コロナ相場での株価動向をチャート付きでご紹介してきました。

無形資産とは、ソフトウェアや特許権、商標権といった、形のない固定資産のことです。無形資産倍率が高ければ高いほど、ソフトウェアのようなデジタル資産や、特許権・商標権のような技術に投資している企業と見ることができます。

新型コロナでデジタルトランスフォーメーションが進む中で、無形資産倍率には注目が集まっており、医療や製薬、ネット企業を中心とした無形資産倍率が高い銘柄は新型コロナ相場で大きく上昇している傾向があることは間違いありません。

一方で、自動車や鉄鋼といった無形資産倍率が低い(=有形資産倍率が高い)企業は新型コロナ相場では苦戦している傾向が見てとれます。アメリカのテスラ・モーターズの時価総額がトヨタ自動車を抜いたことは象徴的な出来事と言えるでしょう。

これから新型コロナが収束に向かったとしても、社会のデジタルトランスフォーメーションが止まることはありません。

デジタルトランスフォーメーションに力を入れる企業の指標として、無形資産倍率に注目していきましょう。

紫垣 英昭