IPO初値売りの銘柄選びとは?大きな利益を出すポイントを解説!

執筆者
プロフィール写真

紫垣英昭

昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介

新規公開株投資ことIPO投資は、投資初心者でも大きな利益を出せる人気の投資方法の一つで す。

その中でも、IPO株の上場と同時に売り抜ける「IPO初値売り」は最も基本的なIPO投資手 法です。

2018年4月にIPOしたAIベンチャーの【4382】HEROZ、2020年9月にIPOしたAIベンチャーの 【4011】ヘッドウォータースなど、IPO初値売りで10倍以上の利益を叩き出せた銘柄も存在し ています。

しかし、IPO初値売りにはメリットだけではなく、デメリットや利益を出しづらいIPO銘柄も あるため、IPO初値売りを始める場合には何点か注意が必要です。

今回は、IPO初値売りのメリット・デメリットについて解説した上で、IPO初値売りで大きな 利益を出せる銘柄の選び方、2021年上半期のIPO初値売りで大きな利益となっていた銘柄につ いても紹介していきます。

この記事を読んで得られること
  • IPO初値売りのメリット・デメリットについてわかる
  • IPO初値売りで大きな利益を出せる銘柄の選び方がわかる
  • 2021年上半期のIPO初値売りで大きな利益となっていた銘柄についてわかる

IPO初値売りとは?どのように利益を出すのか

IPO初値売りとは、新規上場するIPO株を、上場と同時に売り抜ける投資手法のことです。

未上場企業のIPOが証券取引所に承認されると、証券会社を通じて一般投資家に公募が掛けら れます(ブックビルディングと呼ばれます)。

投資家がブックビルディングに応募し、抽選に当 選したら、IPO公募価格でその銘柄を購入します。

その後、IPO銘柄が上場した瞬間に売り抜 けることが「IPO初値売り」と呼ばれる投資手法です。

IPO初値売りは、IPO公募価格よりもIPO初値(IPO上場価格)が大きくなれば利益となります。

例えば、IPO公募価格が1,000円の銘柄を1,000株購入して、上場後のIPO初値が2,000円となっ た瞬間に売り抜ければ、1,000円(=IPO初値2,000円-IPO公募価格1,000円)×1,000株=100万 円の利益となります。

初値売りの例

IPO初値売りを実際の例で見てみましょう。

フリマアプリ「メルカリ」を手掛ける【4385】メルカリは、2018年6月に上場しました。

この ときのIPO公募価格は3,000円となりましたが、メルカリが付けたIPO初値は5,000円となり、IPO初値売りをしていれば+66.7%の利益になったことになります。

【4385】メルカリの日足チャート(2018年6月)

 

IPO初値売りのやり方

抽選に当選したIPO銘柄をIPO初値売りするには、IPO銘柄の上場日前に売り注文を出しておく 必要があります。

売り注文には、すぐに売買できる「成行注文」と指定した株価で売買できる「指値注文」の2種類がありますが、「指値注文」では売れない場合があるので、確実に売れる「成行注文」を 出しておくようにしましょう。

なお、証券会社によって、売り注文が出せるタイミングは次のように異なります。

証券会社

売り注文が出せるタイミング

SBI証券

上場日当日の朝4時前後(複数の市場で上場する場合は朝8時前後)

楽天証券

上場日の1営業日前の17時以降

マネックス証券

上場日の1営業日前の17時前後

松井証券

上場日の1営業日前の17時前後

auカブコム証券

上場日の1営業日前の16時以降

SBIネオトレード証券

上場日の1営業日前の16時以降

また、IPOに買い注文が集まって特別買い気配となった場合には、上場日に初値が付かないこ とがあります。

この場合、「成行注文」は取り消されてしまうため、翌日にも「成行注文」を しっかりと出しておかなければいけません。

IPO株が初値を付けるまでは、売れることを確認するまで「成行注文」を出し続けておく必要 があることには注意しておきましょう。

IPO初値売りのメリット

IPO初値売りのメリットについて押さえておきましょう。

売りタイミングをはかる必要がなく、注文ミスがなくなる

投資で最も難しいことの一つは、「いつ売るか?」という利益確定のタイミングです。

投資初心者のときには、含み益が出ていたにも関わらず、「いつ売るか?」というタイミング を逃してしまった体験は誰もが体験することになります。

とりわけIPO株は、上場後に非常に激しい値動きをすることが多く、プロの投資家やトレーダ ーであっても、IPO株の売りタイミングをはかることは困難を極めます。

投資初心者の場合には、激しい値動きが精神的負担となり、注文ミスをしてしまうケースも少

なくありません。

さらに、IPO株は、上場時に最高値を付ける場合が多く、このようなIPO株の値動きは”IPOゴ ール”とも揶揄されます。

このように、IPO株は利益確定のタイミングが難しく、IPOゴールとなることが多いため、投 資初心者は最初から上場と同時に売り抜けるIPO初値売りをしておくと決めてしまうことが合 理的です。

IPO初値売りは、上場と同時に成行注文を出しておけばいいため、注文ミスをするリスクもな くなります。

勝率・期待値が高い

IPO初値売りは、勝率・期待値ともに非常に高い投資手法であることが統計的に明らかです。

2020年にIPOした銘柄は93銘柄となっており、IPO初値売りが利益となっていた銘柄数は69銘 柄でした。

勝率に換算すると74.19%となります。

さらにIPO投資が驚異的なのは、その期待値です。

2020年のIPO全銘柄について、IPO初値売 りをしていた場合の期待値は+126.37%となっています。

これはつまり、2020年にIPO初値売りをしていた場合には、公募価格の2倍以上の利益が期待 できていたということになります。

ただ、IPO初値売りが高勝率・高期待値であることは、多くの投資家に広まってしまっている 情報であるため、人気銘柄のIPO当選確率は宝くじ並みの確率です。

IPO初値売りのデメリット

次に、IPO初値売りのデメリットについて押さえておきましょう。

勝率100%ではなく、損する場合もある

IPO初値売りは、いくら勝率・期待値が高いと言っても、100%確実に利益になるわけではあ りません。

ただ、リターンが期待できる投資の世界においてノーリスクがないことは、IPO投資に限らな いことです。

「IPOは勝率・期待値は高いかもしれないが、損失になった場合には大きな損になるので は?」と思うかもしれません。

2020年にIPO初値売りをして大きな損失となった上位3銘柄を並べてみると、次のようになっ ています。

銘柄名

公募価格

初値

騰落率

【7688】ミアヘルサ

2,330円

1,738円

-24.98%

【5070】ドラフト

1,580円

1,221円

-22.72%

【7088】フォーラムエンジニアリング

1,310円

1,030円

-21.37%

しかし、この3銘柄はいずれも2020年3月にIPOとなっており、コロナショックが直撃してしま ったという不運があります。

2020年4月以降のIPO初値売りでは、【7358】ポピンズホールデ ィングスの-6.00%(公募価格2,850円→初値2,679円)の損失が最大です。

より大きな利益を逃す場合もある

IPO株は上場直後に高値を付ける”IPOゴール”が多い一方、IPO初値売りをしてしまった後に急 上昇して、悔しい思いをしてしまうケースも少なからずあります。

2020年には、自動車安全装置縫合システムを手掛ける【7317】松屋アールアンドディが、IPO初値では公募割れとなってから急上昇しました。

【7317】松屋アールアンドディの月足チャート

松屋アールアンドディは、公募価格910円から初値838円(-7.9%)となり、現在値は4,390円(+382%)を付けています。

なお、2020年11月27日には8,270円(+808%)まで上がっていまし た。

とはいえ、上場後のIPO株の値動きを予測するのは非常に困難であるため、このようなケース は仕方ないと割り切るほかありません。

IPO上場後に急騰した銘柄もありますが、IPO上場後に暴落して、IPO上場日が上場来高値とな ってしまう銘柄もたくさんあります。

IPO初値売りで大きな利益を出せる銘柄の選び方

IPO初値売りで大きな利益を出せる銘柄の選び方について押さえておきましょう。

東証マザーズ・ジャスダックのIPO銘柄であること

IPO株と一口に言っても、東証一部・東証二部・東証マザーズ・東証ジャスダックのIPOで違 いがあることには注意が必要です。

2020年にIPOした銘柄は93銘柄で、IPO初値売りが利益となっていた銘柄数は69銘柄、IPO初 値売りの勝率は74.19%となっていました。

ただ、IPO銘柄を市場ごとに分類してみると、違った世界が見えてきます。

2020年に東証一部銘柄としてIPOとなった6銘柄は、下表のようにIPO初値売りで損失となっ ていたのです。

銘柄名

公募価格

初値

騰落率

【7085】カーブスホールディングス

750円

670円

-10.67%

【7088】フォーラムエンジニアリング

1,310円

1,030円

-21.37%

【1375】雪国まいたけ

2,200円

2,100円

-4.55%

【7354】ダイレクトマーケティングミックス

2,700円

2,600円

-3.70%

【7944】ローランド

3,100円

2,954円

-4.51%

【7358】ポピンズホールディングス

2,850円

2,679円

-6.00%

2020年の東証二部のIPO初値売りは勝率44.44%、東証マザーズのIPO初値売りは勝率84.13%、東証ジャスダックのIPO初値売りは勝率86.67%となっていました。

つまり、IPO初値売りをするとしても、東証マザーズ・ジャスダックに限って銘柄を選ぶこと は非常に重要です。

少なくとも、IPO初値売りが上手くいかない場合には、東証一部のIPOを避けるだけでも成績 が改善することが期待できます。

AIベンチャーなどデジタルトランスフォーメーション銘柄なら◎

東証マザーズ・ジャスダックのIPOの中でも、AIベンチャーなどデジタルトランスフォーメー ション(DX)銘柄なら、IPO初値売りで、より高い利益になることが期待できます。

2018年4月にIPOしたAIベンチャーの【4382】HEROZは、公募価格4,500円に対して、初値は49,500円となり、騰落率は+988.89%となりました。

【4382】HEROZの月足チャート

 

2020年9月にはAIベンチャーの【4011】ヘッドウォータースが、公募価格2,400円に対して、 初値が28,560円となり、騰落率は+1,090%となりました。

【4011】ヘッドウォータースの月足チャート

HEROZとヘッドウォータースは特別なケースですが、AIベンチャーを始めとする東証マザー ズ・ジャスダックのIT企業のIPOは高騰しやすくなる傾向があります。

また、HEROZ・ヘッドウォータースともに、IPO直後に上場来高値を付けているIPOゴールに なっていることには注目です。

上場時に高騰したIPO株は、IPO初値売りしておくことがリス ク管理の点からも適っていることは明らかです。

公募割れしそうなIPO銘柄には手を出さないようにする

IPO初値売りは高勝率とはいえ、100%確実に利益になるわけではないことには注意が必要で す。

新規公開株式数が多い銘柄の場合には、銘柄の供給量が多くなり、誰もがIPO初値売りをしよ うとすることで売り圧力が強くなり、IPO初値が公募割れとなってしまうケースも見られま す。

特に、東証一部銘柄のIPOでは新規公開株式数が多くなるケースがあり、2018年12月にIPOと なった【9434】ソフトバンクは、公募価格1,500円に対して初値1,282円と、-14.53%の大き な下落となってしまいました。

また、今後の成長可能性が期待できないIPO銘柄にも注意が必要です。

旧態依然とした産業か ら脱却できず、デジタルトランスフォーメーションやIoTに適応できそうにもない銘柄は、必 然的にIPOゴールとなってしまうでしょう。

IPO初値売りという観点からは逆説的になりますが、多くの投資家が「IPO後にも保有してい たい!」と思える銘柄ならば、IPO初値でも売りが出にくくなるため、IPO初値売りで大きな 利益が期待できることになります。

IPO銘柄購入におすすめのネット証券会社

IPO銘柄購入におすすめのネット証券会社はズバリ、SBI証券です。

IPO初値売りの最大の問題点は、そもそもIPO公募が当たりにくいことです。

IPOに少しでも当 たりやすくするためには、優先的に多くの株が割り当てられる「主幹事証券会社」である証券 会社から申し込むことが重要になってきます。

2020年に主幹事証券会社を務めた証券会社の実績は次のようになっています。

順位

証券会社

主幹事証券会社(2020年実績)

1位

野村證券

21回

1位

みずほ証券

21回

3位

SMBC日興証券

17回

4位

大和証券

15回

4位

SBI証券

15回

6位

いちよし証券

5回

一般的に、主幹事証券会社には総合証券が選ばれやすいですが、ネット証券ではSBI証券だけ は例外的に、主幹事証券会社を務めることが多くなっています。

また、SBI証券では、未成年口座でIPOに応募することも可能であるため家族分応募すること が可能で、IPOの抽選・配分に外れた回数に応じて次回以降のIPOで当選しやすくなる「IPOチ ャレンジポイント」というIPOポイント制度が導入されていることもメリットです。

IPO銘柄購入にあたっては、まずはSBI証券で応募してみることがおすすめです。

2021年のIPO初値売り上位5銘柄!

2021年にIPO初値売りで大きな利益となっていた銘柄を見ていきましょう(集計日:2021年6月18日)。

【4174】アピリッツ +374%

ECサイトやWebシステム、オンラインゲーム開発などを手掛ける【4174】アピリッツは、2021年2月25日に上場し、公募価格1,180円に対してIPO初値は5,600円を付けました。

【4174】アピリッツの日足チャート

【4173】WACUL +342%

アクセス解析データの自動分析AI「AIアナリスト・シリーズ」を手掛ける【4173】WACULは、2021年2月19日に上場し、公募価格1,050円に対して、IPO初値は4,645円を付けました。

【4173】WACULの日足チャート

【4498】サイバートラスト +315%

認証・セキュリティーサービスを手掛け、サイバーセキュリティ関連銘柄としても注目される 【4498】サイバートラストは、2021年4月15日に上場し、公募価格1,660円に対して、IPO初 値は6,900円を付けました。

【4498】サイバートラストの日足チャート

【6614】シキノハイテック +213%

半導体検査装置の開発・製造を手掛ける【6614】シキノハイテックは、2021年3月24日に上 場し、公募価格390円に対して、IPO初値は1,221円を付けました。

【6614】シキノハイテックの日足チャート

【6613】QDレーザ +134%

半導体レーザを手掛ける【6613】QDレーザは、2021年2月5日に上場し、公募価格340円に対 して、IPO初値は797円を付けました。

【6613】QDレーザの日足チャート

まとめ

今回は、IPO初値売りのメリット・デメリットについて解説した上で、IPO初値売りで大きな 利益を出せる銘柄の選び方、2021年上半期のIPO初値売りで大きな利益となった銘柄について も紹介してきました。

上場と同時に売り抜けるIPO初値売りは、上場後に値動きが激しくなり、IPOゴールになるこ とも少なくないIPO投資においては最も基本的な投資手法となります。

特に、東証マザーズ・ジャスダック銘柄はIPO初値売りで大きな利益を出しやすく、その中で もAIベンチャーなどのIT企業は狙い目です。

ただ、IPO初値売りをするにしても、そもそもIPO公募に当選しなければ始まりません。

IPO初 値売りの最大の難関は、人気銘柄のIPOに当選することだと言えます。

紫垣 英昭

この記事をかいた人

投資家 / オープンエデュケーション株式会社代表取締役。1964年大阪生まれ。甲子園出場経験者。大学卒業後、証券会社に勤務し、事業法人、金融法人営業、自己売買部門を担当。証券会社退職後、株式投資をはじめ、 日経225先物、FX等の売買指導を行い、個人投資家から絶大なる信頼を得ている。証券会社時代に培ったスキルを投資初心者でも理解できるよう売買指導を行い、今では3000人以上の受講生を抱え、「真に自立できる個人投資家」を輩出するために積極的に活動している。著書に『初心者でもがっぽり儲かる大化け「低位株」投資法』(幻冬舎)『億を稼ぐ投資法則』(ユウメディア)『少額資金で儲ける株ゴー ルデンルール』(ユウメディア)がある。